<1杯め>
- 田村:黒川さんの存在を初めて知ったのはツイッターです。そこで自分の著書『マリリン・モンローと原節子』のことを褒めてくださったんですね。この人、映画撮ってるんだ〜と思って、アカウント情報を見ていたら、ちょうど『VILLAGE ON THE VILLAGE』の劇場公開が決まる一日くらい前だったんですよ。その頃、黒川さんはインフルエンザになって辛そうな時期で…(資料をごそごそと取り出す)
- 黒川:なんですかそれ?あっ!やめてくださいよ…。
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もっと荒々しくてきとーに乱暴にできないのか、こんな映画、そもそも劇場でかかると思ってないのだし、いわばアマチュア映画やりたくてやったんだ。でたらめなことがしたいんだ。ちゃんとしなくていいんだ。苛立たしい。熱、あがりそう。
— Yukinori Kurokawa (@kyuro96) 2016年3月9日 - 田村:これを見て、映画が生まれたんだ!と思って。いいねを押したんですよ。黒川さんは「映画は通過していくだけなんで」ともおっしゃってましたけど、凄いのが出来たんだなっていうのが分かって。観たくて、観たいアピールをしていたら、サンプルDVDを送ってくださいました。
- 伊藤:田村さんはこの映画を最初に褒めた批評家としてのちのち名を残しますね。
- 田村:うふふ(やったぁ!)
- 伊藤:僕はK’sシネマで予告編を観たんです。「画面が面白いな。あ、黒川さんだ。撮ったんだ」って思って。画面で遊んでる映画だなって思いました。
- 田村:私は予告編と監督のツイートで、これは間違いない!って確信しました。ゾクゾクしたんですよ、期待で。
- 伊藤:最初のシーンから大正解だったよね。「あるところにバンドマンが転がっていたんです」で、本当に転がってるっていう。突然カメラが左にパンして、それと同時にバンドマンが転がってくるのがすごく良かった。カメラの動き自体は恣意的なんですけれど、そこに転がって登場したから、あ〜やられた!と(笑)
- 田村:あの「100%ファミリー」っていうお店の看板は小道具だと思っていたら実在のお店なんですね!映画にぴったりすぎて、選びに選んだ小道具だと思ってましたよ。店名はちょっと皮肉なのかなとも思ったんですけど、それならもっとしつこく見せるはずなので、そうじゃないんですね。この映画、小道具の神様がついてるな~とまず思って。
- 黒川:そう言ってもらえて嬉しいです。今回、美術部もいないんで。あれは皮肉にも取れそうですけど、たまたまです。
- 田村:この映画のキーワードは「幸福感」だと思うんです。観終わった夜、微笑みながら寝たんですよ、私。すぐに的確な感想は浮かばなかったんですが、寝る前に最後の中西のピザ持った顔が浮かんで、そしたら凄くいい目覚めだったんですよ。古谷利裕さんがおっしゃってましたね、「夢こそ現実であり、だからその幸福はわたしの経験なのだ」って。その通りだなと。
- 黒川:僕自身は夢のような世界を作ろうと思って撮ってはいなかったので、古谷さんに「夢のような」と書いてもらって、ちょっと驚きました。
- 伊藤:旅をして迷い込んだ異界。異界だけどとても日常的なんですよね。黒川さんは『ブリガドーン』(ヴィンセント・ミネリ監督)って言ってましたけど、イニスフリー(映画『静かなる男』(ジョン・フォード監督)の舞台となった村)でもあると僕は思っています。
- 黒川:意識してなかったですけど、『静かなる男』は仕上げ中にリバイバル公開があって見直しました。イニスフリー感、あるかもしれないです。
- 伊藤:昼間からずっとお酒飲んでるじゃない。脚本が山形育弘さんでね。すぐ『ring my bell』(鎮西尚一監督)を思い出しました。あの映画もずっと昼間から飲んでるよね。
- 田村:紹興酒とか飲んでましたね。
- 伊藤:地酒というか、密造酒もつくってるよね(笑)
- 田村:古賀役の鈴木卓爾さんが悪いなあ〜と思ったのが、いきなり重そうなワインを飲ませるというところですね。絶対この人悪い人だ!って思いました。でも古賀はかっこいい男の役だと、黒川さんはおっしゃっていて。絶対嘘だと思うんですけど。
- 黒川:かっこいいというか、ハワード・ホークス監督のジョン・ウェインみたいにできないかと。みんなを見守っている、みたいな立ち位置で。
- 田村:それ騙してる(笑)ほんとに監督って悪人が多い。鼻からタバコ出したりして、怖いですよ、悪いですよ。
- 黒川:それは卓爾さんの存在に負けたというか(笑)
- 伊藤:でも悪いって言っても、一応古賀はこの町の秩序を守ってるという…。
- 黒川:かのような。
- 伊藤:かのような?(笑)でも古賀さんがやらないと、オールの女とかが騒ぎだしちゃうわけでしょ?この村では。
- 黒川:そうなんですが、彼等が騒いだところで、ほんとに何か(悪いことが)起きるかは、わからないんですよね。
- 伊藤:そうか。じゃあ古賀は「生と死をきちんとわけていたい」という考えを持っているだけなのか。
- 黒川:彼がストーリーを作っているのかもしれないですね。まあ僕も、古賀がいい人間だ、とは思ってないです。ただ悪人とまでは…人でなし?
- 田村:古賀のアクションが唐突で怖いんですね。Ricoに行きたがる中西をなだめて頭をガッと撫でるときとか、最後もガガッと抱きつくけど、あのいきなりな感じが…。
- 伊藤:悪人だとは思わなかったな。でたらめな奴らばっかりだとは思ったけど。昼から飲んで適当だなとは思ったけれど。どうやってお金稼いでるんだろうって
- 田村:羨ましいですよね。まあ映画の中でまで労働したくないから。
- 伊藤:さすがに資本主義も行き届いてない(笑)